結果発表並びに講評
令和元年第1回星の俳句コンテスト
審査員 明治大学教授 夏石番矢
はじめてのコンテストに、日本全国から約千通の応募があったことに、感謝と喜びを表明したいと思います。
おかげさまで、選句の作業も、楽しく、迅速に実行できました。
今回のグランプリである夏石番矢賞は、
オリオン座星の時間の砂時計
橋本來咲
に決定しました。東日本大震災に遭遇された宮城県石巻市からの投句です。オリオン座は、星座のなかでも、目立つものです。しかも大きな星座です。三ツ星は、狩人のオリオンのベルトとも言われていますが、日本では住吉三神としてあがめられてきました。海を往来した私たち祖先の記憶がこの天体に宿っています。橋本さんの俳句では、地上の時間ではなく、夜空の「星の時間」が作者の想像力と実体験によってしっかりととらえられています。そしてその大きな舞台の中で、なるほどオリン座は、「砂時計」として見えてきます。スケールの大きい俳句として推奨します。そして、夜空の星々に、秘密の仕組みを読み取ろうとしてきた、日本に限定されない人類のこれまでの営為も、この俳句は暗示しています。
小学生以下の部門、中高生の部門、それ以上の一般の部門、これらの3部門のそれぞれ第1位から第3位までの入選作も、橋本さんの一句に劣らないできばえです。
小学生以下の部門第1位
四才児自分の星座作ってた
大澤 奏
小学生以下の部門第2位
きれいだなえんとつからみるおほしさま
みずかね りんたろう
小学生以下の部門第3位
しかられて正座しながら星座見る
佐藤 羽華
これらの三句には、幼い作者の無邪気ながら興味深い独創性と真実が詠み込まれています。
第1位の大澤さんの俳句で、「四才児」はすでに、大昔の人類と同じように、星と星を直線で結んで、何か大切なものをそこに発見するのです。何を発見したのでしょうか。
地元の「みずかね」君は、「えんとつ」のてっぺんに登った自分を想像し、夜空の星々を眺めています。
佐藤さんは、意外な場面から、しかられて「正座」させられた子供の立場から、「星座」を横目で眺めています。この作者は、「正座」と「星座」の同じ音の漢字熟語による言葉遊びもやってのけています。
いずれも、決して幼稚ではなく、生き生きとした直感がうかがえる秀句です。
中高生部門第1位
僕の声大地を伝う星月夜
矢部 大夢
中高生部門第2位
午前四時犬の感情春の星
松浦 星大
中高生部門第3位
流星群「前々々世」の音がする
浅野 樹
中高生になると、直感に知性がミックスされた秀句になります。
第1位の矢部君の俳句は、天空ばかりに気を取られた「星の俳句」に意外な「大地」へのまなざしを堂々と示してみせます。自分の「声」が大地を震動させ、夜空では月と星が輝く、耳、肌、目の三感覚に訴える立体的な秀句です。
松浦君の俳句は、明け方の微妙な感覚を詠み込んでいます。生命の躍動を準備するうごめき段階の感覚です。
浅野俳句は、かなり高度な知性と直感が、生み出したものです。「「前々々世」の音」は誰にもわかりませんが、この言葉自体の響きから「流星群」を想像できます。「ザ」行の音の繰り返しが、「流星群」のありさまとつながるからです。
一般の部門第1位
地よ海よ野ざらしの星打ち上げよ
奈良 拓也
一般の部門第2位
星祭少女の水色が咲いている
野谷 真治
一般の部門第3位
星月夜ピテカントロプス歩きだす
髙橋 もこ
一般の部門では、独特な言葉による独特の新世界が生み出されています。
第1位の奈良さんの俳句では、大胆にも星が「野ざらし」と表現されます。宇宙空間に浮かぶ天体が、大地や大海原から、ロケットのように打ち上げられ、野原の雨や風にさらされて、たくましく輝き続けるのです。この「野ざらしの星」は、実は作者自身、あるいは作者がそうありたい自画像です。
野谷さんは、また独特の超現実的な表現を展開しています。「少女の水色」、これが星祭全体からにじみ出ているととらえているのです。素朴で純情な、そしてどこかもろい「水色」は、七夕祭の悲しい側面を言い当てているようです。
髙橋さんは、人と猿の中間生物の直立歩行開始を想像しています。ピテカントロプス・エレクトスは、インドネシアのジャワ島で化石が発見された猿人。まるで、星や月が美しいから、猿人が歩き始めたと言わんばかりの秀句です。
このほかにも、すぐれた俳句はありますが、今回はこれぐらいにさせてください。
こういう講評を書きながら、短い俳句で、しかも星をテーマにして、これだけのことが詠めるということに、改めてうれしい驚きを感じています。
主催:天の川・交野ヶ原日本遺産プロジェクト実行委員会